« こけら落とし | トップページ | 雨の初日。 »

2009年11月10日 (火)

11月11日、手紙舎とヒバリは飛び立ちます。

手紙社の基地のすぐ横には小さな小さな森があって、そのベンチに座り、この手紙を書いている。右を見れば広場があり、緑色の帽子をかぶった幼稚園児たちが、元気に跳び箱を跳んでいる。左を見ればそこにも広場があり、老婦がベンチに腰掛けて休んでいる。小さな森の木々は少しずつ色づいている。上では小鳥が鳴いている。

ここは、昭和40年に建てられた59棟もある団地の中心部で、左にある広場を挟んで、ニの字型に商店街が向かい合っている。商店街といっても6店舗ずつが向かい合った小さなそれで、手紙社の基地は、「ニ」の字の、短いほうの棒の右はじだ。

この場所は、朝から晩まで人通りが決して多いほうではない。いや、はっきり言えば、ほとんど人通りがないと言ってもいい。一般的には、「商売」をするには相応しくない物件なのかもしれない。でも僕たちは、ここがいいと思っている。緑や広場に囲まれた、この場所が気に入っている。

今年の1月、たまたまこの場所を車で通りかかった。パートナーのわたなべとふたりで車を降りてみると、そこは、とてもノスタルジックな空気が流れる場所だった。古い団地だけれど掃除が行き届いていて、古い団地だからこそ空間がゆったりとられていて、大きな木がたくさんあって、とても気持ちのいい場所だった。なんだか子どもの頃にタイプスリップしたような気分になった。

商店街を歩くと、シャッターが閉まっている物件を発見した。空き物件だった。シャッターの隙間から中をのぞいてみた。ボロボロのコンクリートがむき出しになった、がらんどうの空間だった。天井が高くて、いじったら“面白そう”だった。今振り返ってみると、この瞬間、この場所に基地を作ることを決めていたのだと思う。

それからは、自分たちがこれまでさまざまな場所で見つけた「出会い」という名の小石を、「縁」という名の糸で、つなげていくような作業になった。図らずもそうなった。

設計は、友人の建築士・井田耕市君にお願いした。はじめてこの場所に来たとき、彼は驚いていた。この団地は、彼の祖母が住んでいた団地なのだという。小さい頃、彼はよくこの場所を訪れていて、半年ほど、ここで暮らしたこともあるのだという。

大工工事は、やはり友人の山口佳子さんにお願いできることになった。実は、山口さんとは「もう一生会えないかもしれないな」と思っていた時期もあった。だから、山口さんに工事をお願いできたことはもちろん、山口さんと再び会えたことが、とてもうれしかった。

工事期間中、現場に来るといつも山口さんの白いワンボックスの軽自動車が停めてあり、井田君と相談しながら、工事が進められていた。それを眺めているのが楽しかった。出来上がりが待ち遠しい、というよりも、作業を眺めていることが楽しかった。

広島でごはん屋さんをやっていたタナカセイコちゃんのお店「ばばじごはん」に行ったのはちょうど1年前だ。陶芸家の小谷田潤君と、大学のクラスメート・堀家敬嗣君が繋いでくれた縁だった。そのときは基地をつくることはまるで考えていなかったけど、基地の中に食べ物屋さんを作ることを決めたとき、セイコちゃんの顔が思い浮かんだ。果たして、ばばじごはんのセイコちゃんは、“ヒバリ”になって、東京へ飛んできてくれた。

「図書館のような空間をつくりたい」という僕たちの“願い”は、井田君の “設計”によって現実のものになった。空間構成の決め手となる本棚とカウンターは、木工家の西本良太君がつくってくれた。そして、モダン・クラシックの古賀夫妻が、その本棚に収まる素敵な古本をたくさん集めてくれた。

入り口の取っ手や看板やトイレットペーパーホルダーは、成田理俊さんが作ってくれた。
安部太一さんがお手洗いの入り口のドアノブを作ってくれた。
イサドさんは入り口横の“ウェルカムオブジェ”を作ってくれた。
食堂と図書室のテーブルと椅子は、朝香ちゃんの勤め先からゆずってもらい、それを良太君が加工してくれた。
本棚の横には、寺澤さんがオリジナルプリントの写真を飾ってくれた。
編集室の壁には、こばやしゆうさんがプレゼントしてくれた大きな魚の絵を飾った。

壁塗りや床塗りなど、工事の過程でもたくさんの友人に助けられ、基地が完成した。

この場所は、古本と雑貨「手紙舎」であり、ごはん屋「ヒバリ」であり、編集チーム「手紙社」のオフィスでもある。それらすべてを含めて、「基地」と呼ぶことが気に入っている。この場所から取材や打ち合わせに出かけ、帰ってくると、ヒバリのキッチンからいい匂いがしてくる。手紙社のメンバーがひとつのテーブルを囲んで、本をつくっている。「戻ってきたな」と思う。「ここが戻る場所なんだ」と思う。

僕たちにとっての基地は、ここを訪れる人たちにとっても、基地になってくれることを願っている。手紙舎には、100年後もとっておきたい素晴らしい古本がたくさんある。そして、もみじ市に参加してくれている作家さんたちの素晴らしい作品も、たくさんある。この場所に来てくれたみなさんが、それらに触れてくれることを願っている。それらに触れたことをきっかけに、新しい空へ飛び立ってくれたらいいな、と願っている。そして、一生懸命飛びすぎてちょっと疲れたら、ヒバリのごはんを食べに帰ってきてほしいな、と願っている。

基地には裏庭があり、そこを抜けて裏口を出ると、目の前には、白い壁に「38」という数字が描かれた住居錬がある。その38号棟の、手を伸ばせば届きそうな2階の角部屋に、かつて井田君のお祖母ちゃんは住んでいた。工事期間中、今は天国にいる井田君のお祖母ちゃんが、ずっと見守ってくれているような気がしていた。そして、それは今も変わらない。

井田君と、井田君のお祖母ちゃんと、山口さんと、西本君と、古賀夫妻と、もみじ市の仲間と、大切な友人たちに見守られて、11月11日、手紙舎とヒバリは飛び立ちます。

Kichi101
photograph : Misato Iwasaki

●古本と雑貨[手紙舎]

手紙舎は図書館のような空間です。
古書モダン・クラシックが選んだ100年後も残したい麗しい古本と、
毎日の暮らしを豊かにしてくれる手仕事の道具や雑貨を販売します。

営業時間
12:00-18:00(水、木、日曜日)
12:00-23:00(金、土曜日)

定休日:月・火曜日
tel 042-426-4383

●ごはん屋[ヒバリ]

旬のお野菜やからだに優しい食材をつかって、ほくほくのごはんを作ります。
ヒバリは春を告げる鳥。
みなさまのこころに、春のようなあたたかい気持ちをお届けします。

営業時間
昼ごはん 12:00-14:00(水~日曜日)
お茶とおやつ 14:00-18:00(水~日曜日)
晩ごはん 18:00-23:00(金、土曜日のみの営業、ラストオーダーは22:00 です) 

定休日:月・火曜日
tel 042-426-4472

所在地
東京都調布市西つつじヶ丘4-23-35-101(神代団地内)
京王つつじヶ丘駅南口より徒歩10分

Tegamisha_hibari_map_2

京王線つつじヶ丘駅南口を出ると、バスターミナルがあります。
バスターミナルと串揚屋にはさまれた道を、線路を背にして進みます。
左手のローソンをこえた信号(「つつじヶ丘駅南口」交差点)を右折します。
左手にバーミヤンを見ながら坂を下り、2つ目の信号(「神代団地」交差点)を左折します。
まっすぐ進み1つ目の信号(「神代団地中央」交差点)を過ぎると、右手に金子郵便局がありますので、そこを右折します。商店街とスーパー・サンディの間の道を進むと、団地の商店街の広場に出ます。
広場の対角線には、大きなヒマラヤスギの木が2本あります。その横、35号棟(商店街)の端っこが、手紙舎&ヒバリです。
緑に囲まれた、ノスタルジックな団地の風景をお楽しみいただきながら、お越しいただけましたら幸いです。

*商店街とスーパー・サンディさんの共用お客様駐車場が、数台分あります。お車でお越しの方はご利用くださいませ。駐車場が満車の場合は、近隣のコインパーキングをご案内いたしますので、ご連絡をいただけましたら幸いです。

 

|

« こけら落とし | トップページ | 雨の初日。 »